小説「ヒトからの贈り物」part1
ーーーーこれは壊れてしまったヒトのお話、悲しい悲しいヒトの末路は如何に。
「人は欲望に忠実だ、どう足掻こうと最終的には己の中に敵を見出だすこととなろう」
何の(かの)有名な犯罪者は最後にその時言霊を残し息を引き取った。
公開処刑の処刑台で最後の言葉にこれを選びこの言霊を後世に残したのだ。
その言葉はとある少年の頭の中に響く、
この言葉が切っ掛けとなり少年の歯車を大きく狂わせ、破壊し、繊細な歯車を壊した。
少年は問う、大嫌いなアレに。
「ボクは何故、名が無いのか」
アレはその問いを聞く度
「それはお前が○○○○だからだよ」
優しい声音で言葉を返すけど少年にとっては只の呪縛である。
何度問うてもその○○○○の部位だけどうしても聞き取れぬ、
少年は繰り返し、繰返し問う
「己に名が無き理由は?」
少年はアレと同じ空気は吸いたくないと申す、何処に居たって変わらぬだろうに
少年は飛び出した、アレの居る空間から
少年は夢中に走った、その時だけはアレを忘れられるから
息が切れ切れ走り続く、只々夢中で。
走り続けて呼吸も困難になり、少年は立ち止まり辺りを見回す。
何時の間にやら広場に出ていたようで、人だかりが見えた。
少年は歩く、人だかりの方へ。
只の興味本意で向かった先が己の人生を狂わすとも知らずに。
導かれるままに
少年は人だかりを掻き分けて進む、本能のまま、導かれるがままに
人だかりを抜け、目の当たりにしたのはちっぽけな一人の人間の生の終わり。
そこは公開処刑場であった。
その人間は言葉を紡ぐ、最後の力で。
「人は欲望に忠実だ、どう足掻こうと最終的には己の中に敵を見出だすこととなろう」
その言葉は広場に響き渡った。決して大きいとは言い難い大きさにも関わらず反響し、少年の心に染み渡った。
少年は走る、どこまでもどこまでも
町を走り、疲れたら歩く、走って歩いて走って歩いての繰り返し。
走っている間、アレの事は頭の隅に追いやれたが先の一人の人間の言葉が脳裏に焼き付いて離れない。
「己の中の敵......」
気付けば少年は呟いていた。
ボクには感情といった感情がない。
さっきも人間が死ぬところを見たって何とも思わなんだ。
犬、猫、小動物が棄てられてようが興味も何も湧かない。
只々事実を受け入れるのみ
怒り苦しみ楽しみ悲しむ。
そういった感情がスッポリ抜けているのだ