泣けないピエロ
僕は泣き虫だ。
小さなことで喚き散らし、周りをいつも困らせていた。
いつもと変わらず涙が溢れたある日の事、声を出すのが面倒になった。
涙を流すも頭の中は冷静で、いつしか「何時泣き止もうか」と考えるようになっていた。
そうして涙は只の雫と成り果てた。
ある日親友を亡くした。
葬式を執り行う会場の外で、秋雨が降りしきる。
湿った空気の中、泣き叫ぶ者、嗚咽を漏らす者、様々な者が居ながらもそれらは皆一様に涙を流していた。
同じ空気を吸いながらも僕は嗚咽を漏らすことも無く頭の中は静寂に包まれていた。
雫は溢れなかった。
オトナには「子供なのに」と思われただろうか?
「あんなにも親しかったのに」と訝しく思われただろうか?
泣けど騒げど失ったものは戻らないのに雫を零す必要などとあるのだろうか?
成長していくにつれ、僕は無関心、無感動を貫くようになっていった。
心の発達は異様に早かった。
ある日、声を出す必要性を疑った。
何故言葉を発するのか疑問に思った次の瞬間言葉は失くなった。
ある日、ちっぽけな出来事で僕は大泣きした。
一度枯れ果てた声は声帯を震わす事も無く、口から漏れる事も無くそんな自分自身に絶望した。
そういう考えが脳裏によぎり絶望の果てに冷静を取り戻した刹那そこで雫も網膜を濡らす事が無くなった。
『所詮涙などこんなモノか』声に成れない声は虚空へと溶け行く
† † †
幾分もの月日が過ぎた。
いつの間にか僕は道化師になっていた。
通りすがりの少女は問う
「何故ピエロは泣かないの?」
酷く白々しい顔を向けて
逆に問おう、何故そんなことを聞くのだろうか。
声を枯らしたピエロは右手を少女の頭に乗せ、虚偽で塗り固められた笑みを浮かべた、誤魔化すように、誤魔化すように。
その日ピエロは寝付けなかった。
明くる日少女は再び問うた
「ピエロは何故泣けないの?」
酷くすっきりとした満面の笑顔で
泣けない?この子は何を言うのだろうか?
瞬間少女は地に倒れ伏した。なにやら体が弱いようだ。
周りには人影が見えずピエロが叫ぶも音のない言葉は何処にも届かず辺りは静寂に包まれる。
血相を変えて走ってくる者が一つ。
それは少女を抱え上げ雫を流しながら必死に今来た方向へ戻り行く。
後に聞いた話だと少女は命が途絶えたそうな。
声を無くしたピエロは叫ぶ『何故この世はこんなにも理不尽なのか』
『コノ世ハ何故コンナニモ理不尽デ無情ナノカ』
そんな数日の出来事は夢か現(うつつ)か
けれどもピエロの心には大きな傷を穿(うが)いたまま静かに、静かに記憶より薄れていく
心は虚無に包まれ何にも感じなくなった。
塗り固められた虚偽は真実に成り得る。
さぁ、今日も戯曲をしに行こうか
その心に涙を浮かべ
■後書き■
今回の小説は、自身がちっぽけな事で泣いていた時に思い浮かんだお話です。
私自身はこの作品に出ているピエロのように心は閉ざせません。(笑)
ですが、小さな時はぎゃんぎゃん泣き喚いていて、いつ頃からか声をだして泣くのが億劫になって頭の中では冷静だった、というのは実話です。
涙も声も私は枯れていませんがとある実録で「1週間誰とも話していなかったら声が出なくなっていた」というのを聞いて声は出さなければ枯れるものなのか、と。よってピエロは声を出せなくなっています。
軽い昔話にしようと思っていたのですが内容的には重くなりましたすいません…
作中に出てくる女の子は「なんでいきなり出てきていきなり死ぬんだ。」というように感じますがこの少女には「ピエロが働いてる?サーカス的なところが見える病院で毎日ピエロを見ていた。そして重い難病を患っている」という裏付け設定がありました。分かりづらいですね…すいません…そして「人間は死ぬ間近奇妙な行動にでる。」というのを聞いたことがあったのでそれです。病院抜け出したのはそれが理由です。
今回の小説ではちょっと読みづらい漢字が結構使われていますが皆さんにはきちんと意味を理解していただけたでしょうか。世界観を出すにあたり難しい言葉を浮かべてそれを国語辞典などで調べて使用しています。それでも使い方が間違っているかもしれませんがそこは御愛嬌。
「言葉が失くなる」などの表現はわざとです。(正しくは「無くなる」)
この作品の世界観の余韻に浸って頂ければ、また楽しんでいただければ幸いです!
ではそろそろ文字数的にもページ的にも締めくくらねば…!
この作品を読んでくださった皆様に、そして最後までお付き合い頂き感謝です‼
■蛇足■
文芸部の方で冊子として出すまであげておく予定です。
後書きまでまんまあげているので時折?ってなるところはスルーお願いします。
描いた本人特定はしないでください。
誰だか気づいても主に言わないでください恥ずか死にます。